6.まとめ 6.1 +R方式の動作と性能 技術的動作および技術的性能について実証する基本実証実験は、まず「550+ R」方式により平成9年7月から始められたが、+R方式は業界初のことであるので、そ の正常な動作と期待された性能について、果たして所期の成果が得られるかどうかがまず 本実証実験の第一歩であった。 しかし最初の驚きは、テレビ伝送よりレベルを10dB下げて設定した運用レベルでは 「550+R」方式の上り信号には流合雑音がなく、BERがほとんど測定不能であった ことである。有限時間のなかで観測可能な数字を得るためには、伝送レベルをさらに下げ て、CN比を17dBとして始めて誤り訂正なしの1×10のマイナス9乗のBERが実 測可能になった(図3.2.3BERの実測結果)。この素性の良さは、それ以降のなお いろいろな実測データの上に現れていくことになる。 次の驚きは、実際に使用してみて長期に安定していることである。センターでは今回使 用したケーブルモデム2種のうちの1種について、定期的かつ頻繁に(今回の実験では1 分間に3回程度)1台ずつ動作状態を監視しており、監視不能(通信断)があれば記録に 残る仕組みになっているが、月単位での、長期にわたる観測でもそのような記録はなく、 通信は安定に継続されている。 6.2 特記事項としての「集合住宅への通信サービス」 今日、都市部での集合住宅の比率は70%を超えている。マンションが1つもな く、また将来も決してマンションの建たない地区であればいざ知らず、CATVが通信事 業を企図するからには、この70%を超す集合住宅へのサービスを除外して考えるわけに はいかない。しかるに現在通信事業を始めたCATV、あるいは実験を始めたCATVで、 集合住宅へのサービスに何らの問題も持たないところはまずないようであるのは、CAT Vの通信への進出の場面で、大きな問題ふくみと言わねばならぬだろう。 つくばの中心地区も極めて集合住宅の多い地区である。今回の実験では、第1次50世 帯はその半数を集合住宅とすることを決めた。当初インターネットヘの接続は、恐るおそ るまず戸建て住宅から開始したが、やがてそれが集合住宅におよんでも、レベルさえ押さ えれば何らの問題も起きそうにないことが、むしろ拍子抜けですらあった。第2次の実験 では、その約90世帯のほとんど全数が集合住宅になった。しかしこれについても何の心 配もなく、これら全数について毎日無事に実験を続けることができた。 このように、+R方式によって集合住宅への通信サービスに全く問題のないことが分か ったわけであるが、この集合住宅へのサービスの実状が明らかにしたことは、加入者が増 え、伝送内容が増大していく実際の運用の場面で、直ぐにサービスが飽和する怖れのない、 他の方式とは違う600+R方式の包容力の大きさである。集合住宅へのサービスの問題 解決は、実運用の場面で、この方式がますます明瞭にしていくであろう大きな特徴と言え る。本実験の該当地区の集合住宅は築後10年、20年と古いものが多く、テレビ用に張 られた棟内配線も、全数が直列ユニットを使う縦続接続のままのものである。
6.3 「600+R」方式 「600+R」方式は「550+R」方式を発展させ、下り帯域をさらに52M Hz拡張して、2000年から始まるBSデジタル放送や、その先の地上デジタル放送に も対応できるようにしたものである。このため下りと上りの間のガードバンドを48MHz と、従来の約半分にしている。 CATVがアナログ送出からデジタル送出へとサービスを移行させるときには、おそら く何年かかかるこの移行期間中、それまでアナログで送出していた番組について、同じ内 容をアナログとデジタル両方式で並列して放送(サイマル放送)する必要がある。「60 0+R」方式では、アナログ放送にBSデジタル放送、地上デジタル放送、それにサイマ ル放送の全てを加え、計100チャンネル余を送出することができる。そして移行期問が 終われば、230チャンネル余のデジタル放送を送出することができる( 2.4章参照 )。 一方、通信のためには、上りに16QAMを使い、6MHzの幅で20チャンネルを当 てている(21Mbps×20=420MBps)。下りには64QAMを使い、同じだ けの伝送容量(31Mbps×14=434Mbps)を確保することができる。 いまCATVの置かれている現状は、通信事業への進出、デジタル化への対応と、新た な、そして決して僅かではない投資を余儀なくされる事態によって待ち構えられていると 言える。デジタル化の費用は、1チャンネル(6MHz)当たり500万円(トランスモ ジュレーション方式の1例)〜800万円(再多重方式の1例)、それにセットトップボ ックスは1台数万円と言われている(電気通信審議会答申)。こうした状況は、全米放送 事業者連盟(NAB)年次大会での、ソニー米国法人 Howard Stringer 会長の基調講演 「デジタルか死か」との演題の示唆するところであるが、それはCATVにおいても何ら 変わりはない。 これらのデジタル化と通信事業への参入とに対して、如何に「効率よく」資金を割り振 るかは今後のCATVの命運を左右するものと言わねばならない。放送チャンネルの単純 なデジタル化によっては、それだけでは直接プラスの収益にはつながらぬことは銘記され ねばならない。将来230チャンネル余では不足とし、たとえば400〜450チャンネ ル以上ものチャンネルを抱えることになるというのは、一部の施設を除き、過剰投資、あ るいは的を外れた投資とならぬのか、その選択には熟慮を要するものがあろうかと考える。 6.4 ケーブルモデム 今回の実験では、まだ+R方式に適合するケーブルモデムが実在しない状況のな か、既存のケーブルモデムを用い、上りについては周波数を650〜770MHzにアッ プコンバートして実験する方法がとられた。このことは周波数変換の問題だけではなく、 コンバ一ターがケーブルモデムのもつ諸種のコントロール機能の外にあるための制約が心 配された。しかし本実験の遂行のためには問題となるほどの支障は来たさなかった。反対 に、新しいケーブルモデム製作のための有益な多くのデータを得ることができた。 「600+R」方式対応のケーブルモデムは、MCNS仕様を受けた(杜)日本CAT V技術協会の標準規格に準拠し、上り周波数帯域だけを650〜770MHzに変更した ものである。大きさは180(I)×40(W)×140mm(H)、消費電力は約12 Wである。巻頭の写真5はその外観である。 6.5 アプリケーション +R方式を使った応用実証実験についてはすでに4章にその詳細が述べられたが、 特筆すべき一は、実験とはいえ参加者がすでに仕事、生活に密着した使い方をしており、 数々のメリットに、ある者は「職場(研究所)より高速」と言い、またある者は「もうI SDNには戻れない」と口々に発言(メール)していることである。4.1章にある並木 小学校のインターネット活用にしても、子供たちがすでにどっぷりと高速インターネット に、あるいは隣町の小学校とのLANに馴染み切っている様子がよく分かる。また4.3 の日本ダウン症ネットワーク(JDSN)の報告ではわが国の地域・広域の福祉情報ネッ トワークとしてこの高度化された実験が活用され、国内88サイト、海外は12ケ国41 サイトにわたってリンクしているこのネツトワークが、リアルビデオを流して世界中と交 信している様が紹介されている。「ACCS」とのような地域に密着したケーブルテレビ ジョンの運営母体が、福祉目的の情報提供に実験を通して協力したという事例は、わが国 でも他に事例がない画期的なこと」として、JDSNからは大変に感謝されるに至ってい る。 もう一つは職場のコンピューターにログインして、何人もの人が自宅で仕事に使い始め たことである。当然ながらかなり大量のデータをやり取りしながらのこの種の作業は、上 りも下りも高速、大容量であって始めて実現可能となる応用であろう。わが国も時を経ず して、国中がこのような使い方になっていくものと患われる。 このようにして、これまでにトライされた一つ一つの応用実証実験は、想定できる将来 の諸種のアプリケーションを代表するものと考えられ、「600+R」方式の実用化に現 実性をもたせる成果を残した。これらはなお、今回の実験に引き続き約1年にわたってお こなわれる第T期の実験によって、さらに裏打ちされることとなろう。 6.6 むすび(評価) ここに報告した基本実証実験と応用実証実験とによって、+R方式の実現性と有 用性は明解に実証されたと考える。+R方式は @信頼性が高く、上りについても誤り訂正なしで10の−9乗のBERが得られている。 これは集合住宅への通信サービスの問題を解決し、上り信号の16QAMでの伝送を可 能にしたことおよび再送の必要を除いたことで通信の高速性を確保し、またインターネッ トの利用だけではなく、地域内の高速LANにも優に対応できる。 A伝送容量が大きい。 下りのテレビ信号に対しては計約100チャンネルを確保し、全デジタル化の時代には 230チャンネル余のテレビ信号を送出することができる。 そして同時に、上り下りともに十分な伝送容量をもつ、本格的なデータ通信回線を提供 することができる。
B経済性に優れること。 1ノード当たりの端末数を多くとれるために光回線の数やノードの数が少なくて済むこ とや、450MHzシステムとの互換性をもつことなどで代表される経済性は、この方式 による通信事業の実用化を大きく助けることになると思われる。 いま「600+R」方式による建設コストと770MHzシステムによる建設コスト、 および450MHzシステムから「600+R」方式への改修コストを、10,000端 子について比較してみた一例を紹介すると次に示す表6.6.1のようになる。
| 「600+R」方式 | 770MHz | 450MHzから 「600+R」方式へ改修 |
|
| 分譲住宅 | 100% | 108% | 39% |
| 市街地 | 102%(100%) | 119%(117%) |   |
| 郊外 | 143%(100%) | 166%(117%) |   |
(ここでは770MHz方式は1ノードで500端子に対応させることとした)
表6.6.1 コスト比較
つまり「600+R」方式を100とした場合、770MHz方式は分譲住宅地では8 %、市街地と郊外では17%ほど高くなる。また450MHz方式から「600+R」方 式へ改修するには、「600+R」方式新設に比し39%(770MHz方式新設に比し ては36%)ほどの費用で済む。 以上この「CATV高度化計画実証実験」が明らかにしたように、「600+R」方式 が、主として、従来通信を志した多くの事業者たちを苦しめてきた雑音の「隘路」を超え て、CATVにおける上り回線を、新らしい事業展開の期待されるデータ通信用の回線と して、始めて、本格的な意味で実用化に耐える見通しを得ることができたのは、極めて大 きな成果であったと言わざるを得ない。 そしてこれらを通し、われわれのこの実証実験が、わが国のCATVの通信事業への進 出に当たって、いまいたずらに錯綜する混乱や困難に巻き込まれることなく、それらを超 えて、CATV業界の大きな成功へと結実する一助になればと願うものである。 (完)
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